限られた世界は常に広がる

こんにちは、梶原しげこです。
車を運転し職場に向かう途中、
付けていたラジオから東京大学教授の
福島智氏の話が流れてきた。
福島氏は、バリアフリー研究者で、
全盲ろう者なのだ。

 

聞き取りにくい口調で、
聞いていると暗い
気持ちなりそうな気がした。
消したい気持ちを抱えながら、
何気なく話を聞き続けた。

 

目も見えず、耳も聞こえず
「今、僕にわかるのは、
前にある机と足元の床と
少しの空気の動きだけだ」
と話が始まった。

 

私は想像する。
目も見えず、耳も聞こえず。
それはどんな世界なのだろう、と。
福島氏の話は続く。
「だから僕はこうして
通訳の人に教えてもらわないと
わからない」
「目の前にいる人のことを
教えてほしい」
そうすると通訳の人が、
「男性と女性と20人くらいの人が
前に座って話を聞いている」
と伝える。
「年齢は何歳くらいですか?」
という質問に会場に笑いが起きる。

 

私はどんどん話に引き込まれ、
聞き取りにくい口調よりも
彼が何を話すのかに夢中になった。

 

聞きながら、また想像する。
目も見えず、耳も聞こえず。
それはどんな世界なのだろう、と。

その時、ふと、
結局私も同じだなと感じた。
もちろん、私は目も見えて、
耳も聞こえる。今のところは・・・
でも、自分の五感で、
自分の能力で、自分の知識で
とらえられる世界は限られている。
そこから外にどんな世界が
広がっていても、
どんなことが起こっていても、
私には知覚することができない。

 

 

 

例えば、私はずっと社会科が
苦手だった。
他の教科は4や5でも
社会はずっと3。
だから、歴史的に
有名な観光地に行っても、
興味はもっぱら自然の景色と
美味しいもの。
つまり、私には
その歴史が見えないのである。

 

でも夫は国際情勢も歴史も
大好きで事あるごとに
色々説明してくれる。
中東の歴史がうんぬんかんぬん、
関ヶ原の戦いがああやらこうやら。

 

最初は聞いていても
そのうち意識は別のところに。
これは相手が夫だからか??
ごめんね。ダーリン!

 

でも夫のお陰で
今まで見えなかったものが、
わからなかったものが少し理解でき、
その歴史に思いをはせる。
そうやって私の世界は幾分か広がる。
私はカウンセラーとして
仕事をしている。
しかし、資格を取り、
仕事をし始めた時のひどかったこと・・・
今でもあれはないよねと思う。
そしてその時の自分を
責める気持ち。
今思い出しても「辛かったね」と
言ってあげたい。

 

役に立たない自分、何もできない自分が、
恥ずかしく、苦しく、
仕事に行く前に何時間もトイレにこもり、
やっと出かける自分・・・

 

だからこそ、自分の世界に無いものを探し、
じたばたしながら、
手探りで走り回り、
一冊の本を手にした時、
自分の世界はまた広がった。
この話はまた改めて
書きたいと思っている。

 

誰でも自分の世界があり、
その世界は限られた世界である。
知覚できない世界が
自分の外に広がっている。

福島氏は今指点字という方法を使い、
周りの物事を即時に通訳してもらっている。
点字のタイプライターを打つように
手をトントンと叩きながら、
通訳してもらうのだ。
そして福島氏の世界をどんどん広げてもらう。

 

私は夫に「もういいわ」って言いながらも、
話を聞きながら、世界を広げてもらう。

 

人はいつ、どこで、何を、
どんなふうにして何かに出会っていくのか。
人間っておもしろいなって思った。
そして自分はどんな世界を見たいのだろうと
改めて考えるきっかけになった。

 

そう福島氏の話で、
また私の世界は広がり始めている。
福島智
東京大学 先端科学技術研究センター教授
ご興味ある方は福島氏の
自伝的エッセイ集を読んでみてください。

 

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